源一はおどろいて、三輪車のエンジンを全開にして現場へかけつけると、ブレーキをかけるのも、まどろこしく、車からとびおりて田の中を見た。
ジープは車輪を上にして田の中にめりこんでいた。乗っていた人は、どうなったかと見ると、車から五メートルばかり離れたところでのびていた。生きているのか死んでいるのかわからない。顔が血でまっ赤だ。さあたいへん。
ゲンドン
源一は、できるだけの速力で、泥田《どろた》の中へとびこんでいった。ひっくりかえったジープの横をぬけ、たおれているアメリカ人のそばへ寄《よ》った。
その人の顔からは、まだたらたらと血が流れ出てくる様子、いきはしているが、その人は目をとじたままだった。
かたわらにその人の帽子が落ちていた。将校の帽子だった。
「しっかりなさい、もしもし、ハロウ。ハロウ。しっかりなさい」
源一は、「しっかりなさい」という英語を知らないことをたいへんに後悔《こうかい》した。
その人はそれでも気がつかなかった。
「……早く病院につれていかなくては――」
源一は、いきなりその人をかつぎあげた。ずいぶん重い身体だった。しかし源一は力持ちだったから
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