くんですから、動くものは動物です」
ヒトミが自信をもっていった。
「そうでしょうか」と博士はいった。
「ではもう一つだけたずねます。地球の上で、感覚をもっているものは何でしょうか。いきたいと思った方へいったり、寒くなれば寒さにたえるように用心したり、おいしい空気をすったり、のみたければどんどん水をのんだりもする。それは何でしょうか」
「それは動物です」
「あたしもそう思います。動物です」
二人は答えた。それにきまっているからだ。
「そうでしょうか」
と、博士は、こんども疑いのことばで答えた。
なぜ、そんなにわかりきったことを疑うのですか。――と、東助もヒトミも博士にききかえしたいくらいだった。
「世界は動物のもの。地球の上で動くのは動物。感覚があり、したいことをするのも、また動物。あなたがた、そういいましたね。――よくこのことをおぼえていて下さい。あとになって、私はもう一度、あなたがたに、同じことをたずねます」
博士は、なぞのようなことをいった。
「話をしているうちに、もうきました。そのふしぎな国へ下りていきます。ちょっと目まいがするかもしれましぇん。すこしですから、がまんする、よろしいです」
博士のことばが切れると同時にとこからともなく、へんな音響がきこえはじめた。それは奇妙《きみょう》な音色をあげつつ、かわっていった。と、二人は俄《にわか》に胸《むな》さきがわるくなって、はきそうになった。
が、間もなくそれは消えた。いやな音も消えた。震動もなくなった。博士がのっそりと操縦席から立上った。
「いよいよ、あの国へきました。これから下りていくのですが、その前に、私たちは特別の注射をいたします。この注射をしていかないと、おもしろいもの見られましぇん。腕をおだし下さい」
博士の手に、いつの間にか注射針がにぎられていた。
もうここまできては、博士のいうことをきくしかないので、東助もヒトミに目くばせして、注射をしてもらった。それはべつに痛くもかゆくもない注射だった。気分も大してかわらなかった。ただなんとなく気がのびのびして前よりは、いい気持だった。
「それでは、こっちからでましょう」
博士は先へ立って、戸を開いた。
直径二メートルほどの大きな円形の戸口があいていた。外はくらくてみえない。
博士に手をひかれて、東助とヒトミとは、ワン、ツー、スリーで外へとびだした。雷鳴のような音、息ぐるしさ。それらは前と同じようであった。
が、急にあたりが明るくなった。
太陽が頭上にかんかんとかがやいている。涼しいそよ風がふいてくる。見ると一面の砂漠であった。
ふりかえると、この前、地下室で見たと同じ形の小さい樽が一つ、砂の上にあった。そして白い煙をはいていた。この小さい樽の中からでてきたのかと思うと、ふしぎでならない東助とヒトミだった。
「ここはどこですか。どこに、おもしろいものがあるんですか」
「まだ気がつきましぇんか。あそこをごらんなさい」
博士が地平線をゆびさした。
東助とヒトミは、ゆびさされた方を見た。が、見る見る二人の顔におどろきの色がうかんだ。
緑色の怪物
地平線のかなたに、何が見えたか。
はじめは、地平線の上に、緑色の海があって、波が立っているように思われた。が、すぐそれはまちがいであると分った。地平線の上を、緑色のあやしい姿をした怪物が、さかんに踊りまわっているのであった。
それは、おそろしいほどたくさんの集団に見えた。
「なんでしょう、あれは……」
「こっちへくるわ。いやあねえ」
「なんですか、あれは。ええと、ポーデル博士」
東助は、うしろに立って、にやにや笑っている博士にたずねた。
「彼らは、今に、こっちへくる。来れば、それが何者だかわかるでしょう」
博士は、それ以上語ろうとはしなかった。
博士のいう「彼ら」とは、いったい何者であろう。二人が目をみはっているうちにも、彼らの集団は、だんだんこっちへ近づくのが分った。彼らは、頭の上に長い手をふりたてて踊りくるっている。みんな緑色の細いからだを持っている。赤い花みたいなもので、からだをかざりたてているのもあるようだ。
「あれ、何なの。あんな生きもの見たことないわ」
「あれで動いていないと、熱帯の林のようなんだけれどね。しかし林ではない。林はしずかなところだ。彼らは、それとはちがって、気が変になったように踊っている。いや、こっちへおしよせてくる。気持が悪いね」
ヒトミは、いつとなく東助の方へからだをよせて、手をしっかりにぎっていた。
彼らの姿が二人の方に近くなるにしたがって、彼らのいきおいのはげしさにおどろかされた。彼らは洪水《こうずい》のように、こっちへおしよせてくる。
その間にも、東助は彼らの正体をつかもうとして一生けんめ
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