「先生、ありがとう。で、今日は海底へもぐって、なにを見るのですか」
「君は、海底ふかく下りていくと、なにがあると思いますか」
「そうですね、こんぶの林がゆらいでいて、その間を魚の大群がおよいでいます」
「もっと下へさがると、どんなになっていますか。こんどはヒトミさん、話して下さい」
「だんだんあたりが暗くなります。そしてふつうの魚はいなくなって深海魚《しんかいぎょ》ばかりになります。いろんな深海魚は気味のわるい形をしたお魚です。中には自分のからだから青い光を発している魚もいます」
「なかなか、よく知っていますね。もっと下へさがると、なにがありますか」
「まださがるんですか。ええと、するともう魚はいなくなります。やわらかい泥《どろ》が、ふかくよどんでいるだけです」
「もっと下へおりると、どうなりますか」
「もうそこでいきどまりです。おしまいです」
「いや、もっとさがるのです。どうなりますか」
「困ったなあ。泥の中を分けて中へはいっていくと岩がありますね。岩の下をどんどんおりていくと、地球の下にもえているあついどろどろにとけた岩にぶつかります。そうすると死んでしまいます」
「そうです、そうです。そこまで考えないとおもしろくない。つまり海の底には、岩が大きくひろがっている――というか、それとも海の底には陸地があるといった方がいいかもしれませんね。そしてその中にあるのは、岩ばかりですか」
「そうでしょうね」
「生物はいませんか」
「さあ、どうかしら。たぶん、いないと思います。だってそこには空気がないのですもの」
「なかなかいいことをいいますね」
「それに、下へいくほど暑いから、生物なんか生きていけません。上から海水がしみこんでくることもあるだろうし、どっちみち、だめですね」
「よく分りました。あなたがたの知識は正しいです。正しいが、しかしこれからそこへ私が案内したら、きっとおどろきますよ。さあ出発します。そこの窓へ顔をあてておいでなさい。さっきあなたがいったとおりの海中風景が見られますよ」
 そういうと博士は、樽ロケットを進発《しんぱつ》させ、その操縦をはじめた。
 博士のことばどおり、二人の目の前には美しい海の中の風景がくりひろげられ、まるで竜宮《りゅうぐう》に向かう浦島太郎のような気持になった。


   海底国の入口


 三人をのせて樽ロケットは海中をいく。
 海
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