えだしましたよ。ヒトミさん、うしろを見てごらんなさい。へんな形をしたものが立っていますから。しかし決しておどろかなくていいんですよ。安心して見て下さい」
 ポーデル博士にそういわれて、ヒトミも東助も、その方へ目を走らせた。
「あッ」
「あ、お化け……」
 二人の悲鳴である。


   あッ怪物現わる


 ヒトミと東助は、世にもふしぎなる物を見た。それは水色の、のっぺりした人形のようなものだった。背丈《せたけ》はヒトミよりすこし高い。お地蔵《じぞう》さまを青石でこしらえている途中のようなものに見えた。
(どこから、こんなものがはいってきたのかしら。ああ、気味《きみ》がわるい)
 と、ヒトミは、びっくりしてとびのき、博士のうしろへしがみついた。
 そのあやしい物は、一秒の休みもなく、自分の形をたえずかえつづけている。さっきはお地蔵さまの作りかけのように見えたものが、ほんのわずかのうちに形と色とがかわって、エスキモー人のようになった。それが急にふくれあがってきたと思うと、大きな黒竜《こくりゅう》が立っているような形とかわった。それが次には、えたいの知れない前世紀《ぜんせいき》の動物みたいになって、色も急に毒々《どくどく》しくなった。東助もとうとうおそろしくなって、博士のうしろへにげこんだ。
 その怪物は、どんどん背がのびていったので、遂には樽ロケットの外へ首がでてしまった。そうしてもロケットの壁は破れなかったし、音もしなかった。
 そのうちにその怪物は縮《ちぢ》みはじめた。天井から頭部が下りてきた。ゴリラのようなかっこうになり、それからますます縮んで、かっぱのようになり、やがてたくあん石のようになったかと思うとなおも縮んで、ぱっと消えてなくなった。
 ヒトミと東助とは、いいあわせたように、ため息をついた。
「見ましたね。たしかに見えたでしょう」
 ポーデル博士がにやにや笑いながらいった。
「ああ、こわかった。あの化けものは、何ですの」
「あれが、さっきもいった、四次元生物の切り口であります」
「生物ですか」
「そうです。あれはモルネリウスという四次元生物の切り口だけが見えたのです。つまりあのモルネリウスは、さっきあなたがたの三次元世界の中へはいってきて、ずんずん通りすぎたのです。ですから、あの生物が三次元世界と交ったときの切り口だけが、あなたがたに見えたのです。もちろん
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