霊媒らしい。
「皆さん。お待たせしました。実験室の用意ができましたから、あちらへどうぞ」
 金光会長が一同をよびにきた。十四五名の会員たちは席を立って、奥へ入る。もちろんポーデル博士も、東助とヒトミも、とりすました顔でその中に交《まじ》っていた。
 実験室というのは、十二三坪位の広さの板の間じきのがらんとした部屋だった。手前の方に、会員のすわるための椅子が二十脚ほど馬蹄形《ばていがた》にならべてあった。正面の奥、つまり板ばりの壁の前に、電気死刑の椅子のような形のがっちりした肘かけ椅子が一つおいてあり、その左右に小さな角卓子《かくテーブル》が二つずつあった。その外に、主催者側で使うらしい椅子が四つ五つあった。
 壁には、まっ黒なカーテンが、長い裾《すそ》をひいて、隅々にしばってあった。
 と、左手の廊下から、ぞろぞろと四、五人づれの人があらわれた。その中に、ひとりの女性が交っていた。力士《りきし》のようにふとった大きな婦人で、としの頃は三十をすこしこえていると思われた。ただ顔色がよくない。青ぶくれに近い。それが名霊媒の岩竹女史であることは、会員席からのささやきで知れた。他の男の人たちは、この会の幹部であった。この人たちは、正面の左右に並んだ。
 いちばんあとから、白い長髭《ながひげ》の会長がはいってきて、障子《しょうじ》をしめた。そして正面に立って会員たちにあいさつをした。
「これから第九十九回目の心霊実験会をはじめます。本日は、みなさまのご熱望により、特に岩竹女史においでをねがいまして、有名なるゴングの心霊をここへよびだしていただき、いろいろとめずらしい実験をお頼みしたいと思います。それでは暗室《あんしつ》にいたします。なおいつものようにお煙草はおひかえ願います。それから暗黒の中においても、写真撮影と録音とは、絶対におことわりいたします。では幹部の方々。黒幕を三重にはって、この部屋を完全暗室にして下さい」
 そこで幹部たちは席を立って、まわりの黒いカーテンを引いて完全暗室にした。
 そのとき室内に一つ十|燭光《しょっこう》の電灯がついた。これは会長がつけたのだ。
「それでは、例によりまして霊媒の岩竹女史を、この椅子にしっかりしばりつけます。会員の方も四五名、ここへおいで下すって手をお貸し下さい」
 会長が岩竹女史に対して、うやうやしく礼をした。すると女史はゆうぜんと
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