のかしらん」
 二人は、ふしぎに思って、そこらをさがしまわった。が、ないものはなかった。あるのは瓦や石っころやさびた鉄ばかり。二人は夢を見たのであろうかと、うたがった。
 そのときヒトミが東助をよんで、地上を指した。
「東助さん。ここに穴があいているわ。この穴の中へころげこんだんじゃあない」
「なるほど、穴があるね。これかしらん」
 と、東助が穴の方へ近よったとき、ふいに足の下がくずれだした。ヒトミが手をだして東助をすばやく手許《てもと》へひっぱってやらないと、東助は穴の中へ落ちこんだことであろう。
 土がくずれて、あとにできた穴は大きかった。一坪《ひとつぼ》ぐらいの穴になった。どうしたわけかと二人がのぞきこむと、どうやらそこは地下へおりる階段があるらしく思われた。そしてその底はまっくらで、何があるのか分らなかった。
 ここまでつきとめたことだから、二人はもういくところまでいく決心をした。
 二人は持っていた捕虫網やどうらんをそこへおくと、砂や石ころのざらざらする階段を、そろそろと下りていった。
 長い階段をようやくおりきると、そこはがらんとした地下室になっていた。そしてどこからか一道の光がさしこんでいて、しばらくすると二人の目がやみになれて、室内をどうやら見定めることができるようになった。
 このだだっぴろい地下室には、なんにも残ってなかった。――いや、一つだけあった。奥の隅《すみ》っこに、一つの黒ずんだ樽《たる》がちょこなんと床の上におかれてあった。二人は同時にそれを発見したので、同時にびっくりして、両方からよりあって、手をにぎった。
「あれが空を飛んでいたんだ」
「そうよ。やっぱりこの穴へ落ちこんだのね。なんでしょう、樽みたいだけれど……」
「そばへよって、よく見てみよう。だけれど時限爆弾じゃないかなあ」
「そんなものが今空をとんでいるはずはないわ。きっと樽よ。中にお酒か、金貨《きんか》が入っているんじゃない」
「よくばっているよ、ヒトミちゃんは。そばへよってから、どかんと爆発して、死んでしまっても知らないよ」
「だって、ただの樽の形をしているわ。きっとぶどう酒が入っているのよ」
「ぶどう酒が入っている樽が、どうして空をとぶんだい。へんじゃないか」
 そういっているとき、とつぜん樽に小さい煙突《えんとつ》みたいなものがはえた。と思ったら、にわかにどろどろとあや
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