の「赤鬼号」を見つけて、火星上に落ちぬ先にぶんどってしまったということだ。火星人は地球の人類よりやや劣っているらしいことは地球のほうがロケットを先に飛ばしたことでも判ると思うが、しかし数百キロの高空でロケットをぶんどる力のあるところからみると、おそらく西暦一千九百五十年ごろの人類と同等の知識を持っているようにも思われる。
 私はいま研究ちゅうのテレビジョン機を一日も早く完成したいと思う。それは目下のところでは、火星人の手の届かない一万キロの上空から火星地上一センチのものを発見できるという驚異的性能を持ったものである。それができたならば、人類は火星人にぶんどられることもなく至極安全に火星を偵察ができるはずである。
 わが地球と火星との争闘は、「赤鬼号」の訪問をキッカケとしてすでに始まっているのだ。このうえは一刻もはやく、火星人の好戦性を偵察して、宇宙戦争にそなえる必要があるが、私としては何をおいても宇宙塵となっているはずの恩師のありかをぜひとも自分の力で発見したいと思うのである。そのうえで、私の苦しい気持は、はじめてほがらかになることだろう。
 私は常緑地帯を歩きつづけながら、その暗い葉隠れのすきまからキラキラする星座をあおいで、深い呼吸をした。それは私の苦行を激励する恩師の慈悲ぶかい瞳のように思われたのだった。



底本:「十八時の音楽浴」早川文庫、早川書房
   1976(昭和51)年1月15日発行
   1990(平成2)年4月30日2刷
入力:大野晋
校正:もりみつじゅんじ
2000年1月11日公開
2006年7月19日修正
青空文庫作成ファイル:
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