、よく見てやろう」もう、敬二は怕《おそ》れ慄《ふる》えてばかりいなかった。何だか訳のわからぬ不思議なことが始まったと気づいた彼は、その怪奇の正体を一秒でも早くつきとめたいと思う心で一杯だった。
 敬二は寝衣《ねまき》をかなぐりすてると、金釦《きんボタン》のついた半ズボンの服――それはこの東京ビルの給仕《きゅうじ》としての制服だった――を素早《すばや》く着こんだ。そしてつっかけるように編《あみ》あげ靴《くつ》を履《は》いて、階段を転《ころ》がるように下りていった。彼の右手には、用心のたしにと思って、この夏富士登山をしたとき記念のために買ってきた一本の太い力杖《ちからづえ》が握られていた。敬二が一生懸命にいそいで、例の空地の塀《へい》ぎわに駈けつけたときには、空地の草原を下からムクムクと動かしていた怪物は、すでに半分以上も地上に姿を現わしていた。敬二はハアハア息をはずませながら、それを塀の節穴《ふしあな》から認めたのである。
「おおッ。あれは何だろう。――」土を跳《は》ねとばして、ムックリと姿をあらわしたのは、まるで機械水雷《きかいすいらい》のような大きな鋼鉄製らしい球であった。球の表面は、しきりにキラキラ光っていた。よく見るとそれは怪球の表面がゴム《まり》毯のようにすべすべしていないで、まるで鱗《うろこ》を重《かさ》ねたように、小さい鉄片らしいものに蔽《おお》われ、それが息をするようにピクピク動くと、それに月の光が当ってキラキラ閃《ひらめ》くのであった。その怪球はグルグルと、相当の速さで廻っていたが、その上に一つの漂《ただよ》う眼のようなものがあった。それは人間の目と同じに、思う方向へ動くのであった。例の薄赤い火光も、その眼のような穴から出ている光だったのである。
「何だろう。あれは機械なのだろうか。それとも生物なのだろうか」片唾《かたず》をのんでいた敬二少年は、思わずこう呟《つぶや》いた。全《まった》く得態《えたい》のしれない怪球であった。鋼鉄ばりらしく堅く見えるところは機械のようであり、そして蛇の腹のように息をするところは生物のようでもあった。
 さあ、この怪球は、機械か生物か、一体どっちなんだろう?


   二つの怪球


 怪球は、敬二少年の愕《おどろ》きを余所《よそ》に、ずんずん地面の土下から匍《は》いあがってきた。ビビビーン、ビビビーンという例の高い音が
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