ような低能児には、そんなことでは却々[#底本「劫々」。『選集』で「なかなか」となって居るのに合せて訂正]あきらめがつきそうもない。生まれてくると、いつの間にか前から連続している世の中の色々な種々相や約束を押し付けられて、否でも応でもその中で生きることを余儀なくせしめられる。自分の意志や判断が、ハッキリ付かない中にいつの間にか、他人の意志を意志として、他人の生活を生活するようにさせられてしまっている。そして、親達は「誰のお蔭で大きくなったのだと思う」といって、恩をきせ、国家はさも、国家のお蔭でお前を教育してやった、知識を授けてやったというような顔をして恩にきせる。なる程、自分が今迄生きてこられたのは、少なくとも自分のような蒲柳の質の生活力の弱いヤクザ人間が生きておられたのはまったく自分以外の人々のお蔭だということは一応わかりはするが、僕は別段、これを自分の意志からお願いした覚えは毛頭ないのである。つまりよってたかって自分を今のような自分に作りあげてくれたまでである。僕は寧ろそれをありがた迷惑だと思い、大きな御世話だと思ったところで、別段、なんの差支えもなさそうである。まして「酔生夢死」を
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