う。小父さんはあまり酒をやらない方でしたから。私が持つて歸つた罎の酒は減つて居ました。
『高い酒屋だねえ。』
 とお婆さんに言はれた時は、思はず私は紅く成りました。
 午後の三時は毎日私の樂みにした時でした。物のキマリの好い豐田さんの家では、三時といふと必《きつ》と煎餅なり燒芋なりが出ました。あのウマさうに氣《いき》の出るやつを輪切にした水芋か、黄色くホコ/\した栗芋かにブツカる時には殊に嬉しく思ひました。夏にでも成ると、土藏の廂間《ひあはひ》から涼しい風の來るところへ御櫃《おひつ》を持出して、その上から竹の簾《すだれ》を掛けて置いても、まだそれでも暑さに蒸されて御櫃の臭氣《にほひ》が御飯に移ることがあります。儉約なお婆さんは、それを握飯《むすび》に丹精して、醤油で味を附けまして、熱い火で燒いたのをお茶の時に出しました。いかに三時が待遠しくても、終《しまひ》にはその握飯の微かな臭氣が私の鼻に附いて了ひました。折角《せつかく》丹精して造《こしら》へることを思ふと、お婆さんの氣を惡くさせたくない。私の癖として、人が惡い顏をするのを見ては居られません。そこで私は握飯の遣り場に窮《こま》つて、
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