やうに、私は唯譯もなくその小刀を試みたくて成りませんでした。で、入口の格子の中に閉める戸へ行つてそれを試みました。大きなフシ穴を一つ刳《く》り拔いて了つた頃に、小父さんが來て見て呆れまして、
『貴樣はもつと悧好《りかう》な奴だと思つたら、存外馬鹿だナ。』
 と言つて叱られました。斯ういふ惡戲をした時でも、小父さんは實に寛大で、私に好く言つて聞かせるだけでした。私は斯の善良な主人から手荒い目などには一度も逢つたことが有りません。それだけ又た少年の心にも深く斯の小父さんを尊敬しました。
 ある日、私は表の方から馳出《かけだ》して來まして、格子を開けて上らうとする拍子に上《あが》り框《がまち》に激しく躓きました。私の身體は飛んで玄關に轉げました。
『馬鹿め、上から下へ轉がり落ちるつてことは有るが、下から上へ轉がり落ちる奴が有るかい。』
 斯う言つて、小父さんは笑ふやうな人でした。
 斯の小父さんは手細工が好きで、銀座の夜店から鋸《のこぎり》、鉋《かんな》の類を買つて來まして閑暇《ひま》な時には種々な物を手造りにしました。大工の用ひるやうな道具箱までも具へて有りました。小父さんの器用なことは天
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