お師匠さま、わたしでございます。勝重でございます。」
思いがけない弟子《でし》の訪れに、格子の内の半蔵もややわれに帰ったというふうではあった。苦髪楽爪《くがみらくづめ》とやら、先の日に勝重が見に来た時よりも師匠が髭《ひげ》の延び、髪は鶉《うずら》のようになって、めっきり顔色も青ざめていることは驚かれるばかり。でも、師匠は全く本性を失ってはいない。ややしばらく沈黙のつづいた後、
「勝重さん、わたしもこんなところへ来てしまった。わたしは、おてんとうさまも見ずに死ぬ。」
半蔵は荒い格子につかまりながらそれを言って、愛する弟子の顔をつくづくとながめた。
「そんなお師匠さまのようなことを言わないで……御気分が治まりさえすれば、いつでもあの静の屋の方へお帰りになれますぞ。その時は勝重がまたお迎えにあがります。みんな首を長くしてその日の来るのをお待ち申しています。時に、お師匠さま、ちょうど昔で言えば菊の酒を祝う季節もまいっておりますから、実は瓢箪《ふくべ》にお好きな落合の酒を入れまして、腰にさげてまいりました。しばらくお師匠さまも盃《さかずき》を手にはなさいますまい。」
勝重が半蔵の見ている前
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