思ったくらい苦しかった。ほんとに、冗談じゃない。いろはにほへとと同じことを枕《まくら》の上で繰り返して見たり、一二三四と何べんとなく数えて見たりして、どうかしておれは眠りたいと思った。そのうちに眠られた。もうあんなことは懲り懲りした。ここまで来ないと、酒はやめられないものかもしれないナ。」
「そりゃ、あなた、できればここでふッつりお断ちなさるがいい。そう思って、わたしはもうお酒の道具を片づけてしまいましたよ。」
「まあ、晩酌《ばんしゃく》に五勺ばかりやって見たところでまるで、雀《すずめ》が水を浴びるようなものさ。なかなか節酒ということが行なわれるもんじゃない。飲むなら飲む、飲まないなら全く飲まない――この二つだ。」


 九月の来るころまで、とにもかくにも半蔵の禁酒が続いた。その一夏の間、静の屋の二階からは澄んだ笛の音が屋外《そと》までもれてよく聞こえた。ひとりいる時の半蔵が吹き鳴らした音だ。木曾特有な深い緑の憂鬱《ゆううつ》が谷や林の間を暗くしたころに、思い屈した彼の胸からは次ぎのような言葉もほとばしり流れて来た。
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思[#レ]国、思[#レ]君、思[#レ]家、思
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