所横網の屋敷を辞してから、半蔵が和助を案内して行ったのは旧両国広小路を通りぬけて左衛門橋《さえもんばし》を渡ったところだ。旧《ふる》いなじみの多吉夫婦が住む左衛門町の家だ。和助はどうして父がそんな下町風《したまちふう》の家の人たちと親しくするのか何も知らないから、一別以来の話が出たり、飛騨の山の話が出たり、郷里の方の話まで出たりするのをさも不思議そうにしていた。久しぶりの半蔵が子まで連れて訪ねて行ったことは、亭主《ていしゅ》の多吉やかみさんのお隅《すみ》をよろこばせたばかりでなく、ちょうどそこへ来合わせている多吉夫婦の娘お三輪《みわ》をも驚かした。お三輪ももううつくしい丸髷姿《まるまげすがた》のよく似合うような人だ。
「へえ。青山さんには、こんなお子さんがおありなさるの。」
 と言いながら、お三輪は膝《ひざ》を突き合わせないばかり和助の前にすわって、何かこの子をよろこばせるようなものはないかと母親に尋ね、そこへお隅が紙に載せた微塵棒《みじんぼう》を持って来ると、お三輪はそれを和助のそばに置いて、これは駄菓子《だがし》のたぐいとは言いながら、いい味の品で、両親の好物であるからと言って見せ
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