のに気づき、それを堀のなかに捨てなどしながら、しばらく校舎の付近を立ち去りかねた。和助に聞くと、親しい学校友だちの一人が通って来る三十間堀《さんじっけんぼり》もそこからそう遠くない。その足で彼はそちらの方へも和助に案内させて行って見た。春先の日のあたった三十間堀に面して、こぢんまりとした家がある。亡《な》き夫の忘れ形見に当たる少年を相手に、寂しい日を送るという一人の未亡人がそこに住む。おりから和助の学校友だちは家に見えなかったが、半蔵親子のものが訪《たず》ね寄った時はその未亡人をよろこばせた。彼は和助の見ている前で、手土産がわりに町で買い求めた九年母《くねんぼ》を取り出し、未亡人から盆を借りうけて、いきなりツカツカと座をたちながら、そこに見える仏壇の前へ訪問のしるしを供えたというものだ。その時の彼の振る舞いほど和助の顔を紅《あか》らめさせたこともなかった。父のすることはこの子には、率直というよりも奇異に、飄逸《ひょういつ》というよりもとっぴに、いかにも変わった人だという感じを抱《いだ》かせたらしい。彼にして見ればかつて飛騨《ひだ》の宮司《ぐうじ》をもつとめたことのある身で、このくらいの
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