しなかった。


 多吉と恭順とは半蔵に付き添いながら、午後の四時ごろには左衛門町へ引き取って来た。お隅はこの三人を格子戸口に待たせて置き、下女に言いつけてひうち石とひうち鉄《がね》とを台所から取り寄せ、切り火を打ちかけるまでは半蔵らを家に入れなかった。
 時ならぬ浄《きよ》めの火花を浴びた後、ようやくの思いでこの屋根の下に帰り着いたのは半蔵である。青ざめもしよごれもしているその容貌《ようぼう》、すこし延びた髭《ひげ》、五日も櫛《くし》を入れない髪までが、いかにも暗いところから出て来た人で、多吉の着物を拝借という顔つきでいる彼がしょんぼりとした様子はお隅らの目にいたいたしく映る。彼は礼を言っても言い足りないというふうに、こんなに赤の他人のことを心配してくれるお隅の前にも手をついたまま、しばらく頭をあげ得なかったが、やがて入檻中肌身に着けていたよごれ物を風呂敷包みのままそこへ差し出した。この中は虱《しらみ》だらけだからよろしく頼むとの意味を通わせた。
「まずまあ、これで安心した。」と言って下座敷の内を歩き回るのは多吉だ。「お隅、おれは青山さんを連れて風呂《ふろ》に行って来る。金丸先生には
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