さん(お粂《くめ》)の肥《ふと》ったには驚きましたよ。あの姉さんも、いい細君になりましたぜ。」
宗太が思い出したように、そんな話を家のものにして聞かせると、
「ねえ、お母《っか》さん、色の白い人が肥ったのも、わるかありませんね。」
飯田《いいだ》育ちのお槇《まき》もお民のそばにいて言葉を添える。
その晩、半蔵は子供らが上京の模様にやや心を安んじて、お民と共に例の店座敷でおそくまで話した。過ぐる一年ばかりは和助もその部屋《へや》には寝ないで、年老いた祖母と共に提灯《ちょうちん》つけて裏二階の方へ泊まりに行ったことを彼は思い出し、とにもかくにもその末の子までが都会へ遊学する時を迎えたことを思い出し、先代吉左衛門も彼の年になってはよく枕《まくら》もとへ古風な手さげのついた煙草盆《たばこぼん》を引きよせたことなぞを思い出して、お民と二人の寝物語にまで東京の方のうわさで持ち切った。
「お民、お粂が結婚してから、もう何年になろう。植松のお婆さんでおれは思い出した。あの人の連れ合い(植松|菖助《しょうすけ》、木曾福島旧関所番)は、お前、維新間ぎわのごたごたの中でさ、他《よそ》の家中衆から名古屋臭いとにらまれて、あの福島の祭りの晩に斬《き》られた武士さ。世の中も暗かったね。さすがにあのお婆さんは尾州藩でも学問の指南役をする宮谷家から後妻に来たくらいの人だから、自分の旦那《だんな》の首を夜中に拾いに行って、木曾川の水でそれを洗って、風呂敷包《ふろしきづつ》みにして持って帰ったという話がある。植松のお婆さんはそういう人だ。琴もひけば、歌の話もする。あの人を姑《しゅうとめ》に持つんだから、お粂もなかなか気骨《きぼね》が折れようぜ。」
半蔵夫婦のうわさが総領娘のことに落ちて行くころは、やがて夜も深かった。
「ホ、隣の人は返事しなくなった。きょうはお民もくたぶれたと見える。」
と半蔵はひとり言って見て、枕もとの角行燈《かくあんどん》のかげにちょっと妻の寝顔をのぞいた。四十四歳まで彼と生涯をともにして来たこの気さくで働くことの好きな人は、夜の眠りまでなるがままに任せている。いつのまにか安らかな高いびきも聞こえて来る。その声が耳について、よけいに彼は目がさえた。
「酒。」
そんなことを夜中に彼が言い出したところで、答える人もない。眠りがたいあまりに、彼は寝床からはい出して、手燭《てし
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