らね。」
「して見ると、わたしたちが年を取るのも不思議はありませんかねえ。」とお里もそばにいて言葉を添える。
「何かなあ。あれでお粂も娘の一心に何か思いつめたことでもあるのかなあ。」と寿平次が言った。
「それがですよ。」とお民は答える。「許嫁《いいなずけ》の人のことでも忘れられないのかというに、どうもそうじゃないらしい。」
「それで、何かえ。お粂はどんなようすだえ。」とまたおばあさんがきく。
「わたしが何をたずねても、うつむいて、沈んでばかりいますよ。」
「そりゃ言えないんだ。」と寿平次は考えて、「ああいう早熟な子にかぎって、そういうことはあることだよ。」
「ほんとに、妙な娘ができてしまいました。あの年で、神霊《みたま》さまなぞに凝って――まあ、お父《とっ》さん(半蔵)にそっくりなような娘ができてしまいました。」
「でも、お民、おれはいい娘だと思う。」
 と寿平次は言って、その晩の話はお粂のようすを聞いて見るだけにとどめようとした。お民の方でも、それを生家《さと》の人たちの耳に入れるだけにとどめて、おばあさんや兄の知恵を借りに来たとはまだ言い出せなかった。
 馬籠峠の上ともちがい、木曾も西のはずれから妻籠まではいると、大きな谷底を流れる木曾川の音が日によって近く聞こえる。お民は久しぶりでその音を耳にしながら、その晩は子供と一緒におばあさんのそばに寝た。

       四

 翌朝になると、寿平次の家では街道に接した表門のところへ新しい掛け札を出す。
  信濃国、妻籠駅、郵便御用取扱所
               青山寿平次
 こんな掛け札もお民としては初めて見るものだ。近く配達夫になったばかりのような村の男も改まった顔つきをしてやって来る。店座敷はさしあたり郵便事務を取り扱うところにあてられていて、そこの壁の上には新たに八角型の柱時計がかかり、かちかちという音がし出した。
 まだわずかしか集まらない郵便物を袋に入れて、隣駅へ送ること、配達夫に渡すべきものへ正確な時間を記入すること、妻籠駅の判を押すこと、すべてこれらのことを寿平次は問屋時代と同じ調子でやった。それから戸長らしい袴《はかま》をつけて、戸長役場の方へ出勤するしたくだ。
「なあに、郵便の仕事の方はまだ閑散なものさ。切手を貼《は》って出せば、手紙の届くということが、みんなにわからないんだね。それよりは飛脚
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