かって来たら、お前たちだってうれしかろうに。あのお武家さまがこの街道へ来てむやみといばった時分のことを考えてごらん、百姓は末の考えもないものだなんて言われてさ、まるで腮《あご》で使う器械のように思われたことも考えてごらんな。お前たちは、刀に手をかけたお武家さまから、毎日追い回されてばかりいたじゃないか。御一新ということになって来た。ようやくこんなところへこぎつけた。それを考えたら、お前たちだってもうれしかろう。」
「そりゃ、うれしいどころじゃない。」
「そうか。お前たちもよろこんでいてくれるのか。」
その時、半蔵には兼吉の答えることが自分の気持ちを迎えるように聞こえて、その「うれしいどころじゃない」もすこし物足りなかった。兼吉のそばに膝《ひざ》をかき合わせている桑作はまた、言葉もすくない。しかしこの二人は彼の家へ出入りする十三人の中でも指折りの百姓であった。そこで彼はこんな場合に話して置くつもりで、さらに言葉をつづけた。
「そんなら言うが、今は地方《じかた》のものが騒ぎ立てるような、そんな時世じゃないぞ、百姓も、町人も、ほんとに一致してかからなかったら、世の中はどうなろう。もっと皆が京都の政府を信じてくれたら、こんな一揆も起こるまいとおれは思うんだ。お前たちからも仲間のものによく話してくれ。」
「そのことはおれたちもよく話すわいなし。」と桑作が答える。
「だれだって、お前、饑《う》え死《じ》にはしたくない。」とまた半蔵が言い出した。「そんなら、そのように、いくらも訴える道はある。今度の政府はそれを聞こうと言ってるんじゃないか。尾州藩でも決して黙ってみちゃいない。ごらんな、馬籠の村のものが一同で嘆願して、去年なぞも上納の御年貢《おねんぐ》を半分にしてもらった。あんな凶年もめったにあるまいが、藩でも心配してくれて、御年貢をまけた上に、米で六十石を三回に分けてさげてよこした。あの時だって、お前、一度分の金が十七両に、米が十俵――それだけは村中の困ってるものに行き渡ったじゃないか。」
「それがです。」と兼吉は半蔵の言葉をさえぎった。「笹屋《ささや》の庄助さのように自分で作ってる農なら、まだいい。どんな時でもゆとりがあるで。水呑百姓《みずのみびゃくしょう》なんつものは、お前さま、そんなゆとりがあらすか。そりゃ、これからの世の中は商人《あきんど》はよからず。ほんとに百姓は
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