て、宿役人へ願いの筋があるととなえて、村じゅうでの惣《そう》寄り合いを開始する。果ては、大工左官までが業を休み、町内じゅうの小前のものは阿弥陀堂《あみだどう》に詰めて、上納|御年貢米《おねんぐまい》軽減の嘆願を相談するなど、人気は日に日に穏やかでなくなって行った。
金兵衛は半蔵を見るたびに言った。
「どうも、恐ろしい世の中になって来ました。掟年貢《おきてねんぐ》の斗《はか》り立てを勘弁してもらいましょう、そんなことを言って、わたしどもへ出入りの百姓が三人もそろって談判に見えましたよ。」
そういう隠居は木曾谷での屈指な分限者《ぶげんしゃ》と言われることのために、あの桝田屋《ますだや》と自分の家とが特に小前の者から目をつけられるのは迷惑至極だという顔つきである。米不足から普請工事も見合わせ、福島の大工にも帰ってもらい、左官その他の職人に休んでもらったからと言って、そんなことまでとやかくと言い立てられるのは、なおなお迷惑至極だという顔つきである。
「金兵衛さん、」と半蔵は言った。「あなたのようにあり余るほど築き上げたかたが、こんな時に一肌《ひとはだ》脱がないのはうそです。」
「いえ、ですからね、あの兼吉《かねきち》に二俵、道之助に七斗、半四郎に五俵二斗――都合、三口合わせて三石七斗は容赦すると言っているんですよ。」
金兵衛の挨拶《あいさつ》だ。
半蔵はこの人の言うことばかりを聞いていられなかった。庄屋としての彼は、どんな骨折りでもして、小前の者を救わねばならないと考えた。この際、木曾福島からの見分奉行《けんぶんぶぎょう》の出張を求め、場合によっては尾州代官山村|甚兵衛《じんべえ》氏をわずらわし、木曾谷中の不作を名古屋へ訴え、すくなくも御年貢上納の半減をきき入れてもらいたいと考えた。
あいにくな雨の日がまたやって来た。もうたくさんだと思う大雨が朝から降り出して、風の方角も北から西に変わった。本陣の奥座敷では床上《ゆかうえ》がもり、袋戸棚《ふくろとだな》へも雨が落ちた。半蔵は自分の家のことよりも村方を心配して、また町内を見回るために急いでしたくした。腰に結ぶ軽袗《かるさん》の紐《ひも》もそこそこに、寛《くつろ》ぎの間《ま》から囲炉裏ばたに出て下男の佐吉を呼んだ。
「オイ、蓑《みの》と笠《かさ》だ。」
その足で半蔵は町田の向こうまで行って見た。雨にぬれた穂先は五、六
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