う関所番が切腹のうわさは、半蔵らにとってまだ実に生々《なまなま》しかった。
蘭《あららぎ》から道は二つに分かれる。右は清内路に続き、左は広瀬、大平《おおだいら》に続いている。半蔵らはその左の方の道を取った。時には樅《もみ》、檜木《ひのき》、杉《すぎ》などの暗い木立ちの間に出、時には栗《くり》、その他の枯れがれな雑木の間の道にも出た。そして越えて来た蘭川の谷から広瀬の村までを後方に振り返って見ることのできるような木曾峠の上の位置に出た。枝と枝を交えた常磐木《ときわぎ》がささえる雪は恐ろしい音を立てて、半蔵らが踏んで行く路傍に崩《くず》れ落ちた。黒い木、白い雪の傾斜――一同の目にあるものは、ところまだらにあらわれている冬の山々の肌《はだ》だった。
昼すこし過ぎに半蔵らは大平峠の上にある小さな村に着いた。旅するものはもとより、荷をつけて中津川と飯田の間を往復する馬方なぞの必ず立ち寄る休み茶屋がそこにある。まず笠《かさ》を脱いで炉ばたに足を休めようとしたのは景蔵だ。香蔵も半蔵も草鞋《わらじ》ばきのままそのそばにふん込《ご》んで、雪にぬれた足袋《たび》の先をあたためようとした。
「どれ、芋焼餅《いもやきもち》でも出さずか。」
と供の佐吉は言って、馬籠から背負《しょ》って来た風呂敷包みの中のものをそこへ取り出した。
「山で食えば、焼きざましの炙《あぶ》ったのもうまからず。」
とも言い添えた。
炉にくべた枯れ枝はさかんに燃えた。いくつかの芋焼餅は、火に近く寄せた鉄の渡しの上に並んだ。しばらく一同はあかあかと燃え上がる火をながめていたが、そのうちに焼餅もよい色に焦げて来る。それを割ると蕎麦粉《そばこ》の香と共に、ホクホクするような白い里芋《さといも》の子があらわれる。大根おろしはこれを食うになくてならないものだ。佐吉はそれを茶屋の婆《ばあ》さんに頼んで、熱い焼餅におろしだまりを添え、主人や客にも勧めれば自分でも頬《ほお》ばった。
その時、※[#「くさかんむり/稾」、171−13]頭巾《わらずきん》をかぶって鉄砲をかついだ一人の猟師が土間のところに来て立った。
「これさ、休んでおいでや。」
と声をかけるのは、勝手口の流しもとに皿小鉢《さらこばち》を洗う音をさせている婆さんだ。半蔵は炉ばたにいて尋ねて見た。
「お前はこの辺の者かい。」
「おれかなし。おれは清内路だ。」
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