。そこへ行くと寿平次さんの方は、おれの内部《なか》にいろいろなものを見つけてくれる。おれはお前の兄さんの顔を見ていると、何か言って見たくなるよ。」
「あなたは兄さんがきらいですか。」
「どうしてお前はそんなことを言うんだい。寿平次さんとおれとは、同じように古い青山の家に生まれて来た人間さ。立場は違うかもしれないが、やっぱり兄弟《きょうだい》は兄弟だよ。」
 半蔵はお民のからだを心配して床につかせ、自分でも休もうとして、いったんは妻子のそばに横になって見た。眠りがたいままに、また起き出して入り口の戸をあけて見ると、東南の方角にあたる暗い空は下の方から黄ばんだ色にすこしずつ明るくなって来て、深夜の感じを与える。
 遠い先祖代々の位牌《いはい》、青山家の古い墓地、それらのものを預けてある馬籠の寺のことから、そこに黙って働いている松雲和尚《しょううんおしょう》のことがしきりに半蔵には問題の人になって来た。彼はあの万福寺の新住職として松雲を村はずれの新茶屋に迎えた日のことを思い出した。あれは雨のふる日で、六年の長い月日を行脚《あんぎゃ》の旅に送って来た松雲が笠《かさ》も草鞋《わらじ》もぬれながら
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