。こんなにわたしたちを避けなくてもよさそうなものです。」
「出稼《でかせ》ぎの問題には触れてくれるなと言うんでしょう。」
にわかな雨で、二人《ふたり》の話は途切れた。半蔵は店座敷の雨戸を繰って、それを一枚ほど閉《し》めずに置き、しばらく友だちと二人で表庭にふりそそぐ強い雨をながめていた。そのうちに雨は座敷へ吹き込んで来る。しまいには雨戸もあけて置かれないようになった。
「お民。」
と半蔵は妻を呼んだ。燈火《あかり》なしには話も見えないほど座敷の内は暗かった。お民ももはや二十四で、二人子持ちの若い母だ。奥から行燈《あんどん》を運んで来る彼女の後ろには、座敷の入り口までついて来て客の方をのぞく幼いものもある。
時ならぬ行燈のかげで、半蔵と香蔵の二人は風雨の音をききながら旧師のことを語り合った。話せば話すほど二人はいろいろな心持ちを引き出されて行った。半蔵にしても香蔵にしても、はじめて古学というものに目をあけてもらった寛斎の温情を忘れずにいる。旧師も老いたとは考えても、その態度を責めるような心は二人とも持たなかった。飯田《いいだ》の在への隠退が旧師の晩年のためとあるなら、その人の幸福を
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