》もなく、何等の準備《したく》もなく、ただただ身の行末を思い煩うような有様をして、今にも地に沈むかと疑われるばかりの不規則な力の無い歩みを運びながら、洋服で腕組みしたり、頭を垂れたり、あるいは薄荷《はっか》パイプを啣《くわ》えたりして、熱い砂を踏んで行く人の群を眺めると、丁度この濠端に、同じような高さに揃えられて、枝も葉も切り捨てられて、各自の特色を延ばすことも出来ない多くの柳を見るような気がする。「ああ、並木だ」と相川は腰弁の生涯を胸に浮べた。
「もっと頭を挙げて歩け」
こう彼は口の中で言って見て、塵埃《ほこり》だらけに成った人々の群を眺め入った。
底本:「旧主人・芽生」新潮文庫、新潮社
1969(昭和44)年2月15日初版発行
1970(昭和45)年2月15日2刷
入力:紅邪鬼
校正:伊藤時也
1999年12月11日公開
2003年10月29日修正
青空文庫作成ファイル:
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