し早くやって来たというまでだ。それに気質の合わないことが次第によくわかって来た兄妹《きょうだい》をこんな狭い巣のようなところに無理に一緒に置くことの弊害をも考えた。何も試みだ、とそう考えた。私は三郎ぐらいの年ごろに小さな生活を始めようとした自分の若かった日のことを思い出して現に私から離れて行こうとしている三郎の心をいじらしくも思った。
 この三郎を郊外のほうへ送り出すために、私たちの家では半分引っ越しのような騒ぎをした。三郎の好みで、二枚の座ぶとんの更紗《さらさ》模様も明るい色のを造らせた。役に立つか立たないかしれないような古い椅子《いす》や古い時計の家にあったのも分けた。持たせてやるものも、ないよりはまだましだぐらいの道具ばかり、それでも集めて、荷物にして見れば、洗濯《せんたく》したふとんから何からでは、おりから白く町々を埋《うず》めた春先の雪の路《みち》を一台の自動車で運ぶほどであった。

 その時になって見ると、三人の兄弟《きょうだい》の子供は順に私から離れて行って、末子|一人《ひとり》だけが私のそばに残った。三郎を送り出してからは、にわかに私たちの家もひっそりとして、食卓もさび
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