室の内には声が無かつた。細目に点けて置いた洋燈《ランプ》の光は天井へ射して、円く朦朧《もうろう》と映つて居る。銀之助は其を熟視《みつ》め乍ら、種々《いろ/\》空想を描いて居たが、あまり丑松が黙つて了つて身動きも為ないので、終《しまひ》には友達は最早《もう》眠つたのかとも考へた。
『瀬川君、最早|睡《ね》たのかい。』と声を掛けて見る。
『いゝや――未《ま》だ起きてる。』
丑松は息を殺して寝床の上に慄《ふる》へて居たのである。
『妙に今夜は眠られない。』と銀之助は両手を懸蒲団の上に載せて、『まあ、君、もうすこし話さうぢやないか。僕は青年時代の悲哀《かなしみ》といふことを考へると、毎時《いつも》君の為に泣きたく成る。愛と名――あゝ、有為な青年を活すのも其だし、殺すのも其だ。実際、僕は君の心情を察して居る。君の性分としては左様《さう》あるべきだとも思つて居る。君の慕つて居る人に就いても、蔭乍《かげなが》ら僕は同情を寄せて居る。其だから今夜は斯様《こん》なことを言出しもしたんだが、まあ、僕に言はせると、あまり君は物を六《むづ》ヶ|敷《しく》考へ過ぎて居るやうに思はれるね。其処だよ、僕が君に忠告したいと思ふことは。だつて君、左様ぢや無いか。何も其様に独りで苦んでばかり居なくたつても好からう。友達といふものが有つて見れば、そこはそれ相談の仕様によつて、随分道も開けるといふものさ――「土屋、斯《か》う為たら奈何《どう》だらう」とか何とか、君の方から切出して呉れると、及ばず乍ら僕だつて自分の力に出来る丈のことは尽すよ。』
『あゝ、左様《さう》言つて呉れるのは君ばかりだ。君の志は実に難有《ありがた》い。』と丑松は深い溜息を吐いた。『まあ、打開けて言へば、君の察して呉れるやうなことが有つた。確かに有つた。しかし――』
『ふむ。』
『君はまだ克《よ》く事情を知らないから、其で左様言つて呉れるんだらうと思ふんだ。実はねえ――其人は最早死んで了《しま》つたんだよ。』
復《ま》た二人は無言に帰つた。やゝしばらくして、銀之助は声を懸けて見たが、其時はもう返事が無いのであつた。
(四)
銀之助の送別会は翌日《あくるひ》の午前から午後の二時頃迄へ掛けて開らかれた。昼を中へ※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]んだは、弁当がはりに鮨《すし》の折詰
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