/\》したことも言へないぢやないか。』
 斯ういふ述懐は丑松を笑はせた。敬之進も亦《ま》た寂しさうに笑つて、
『ナニ、それもね、継母《まゝはゝ》ででも無けりや、またそこにもある。省吾の奴を奉公にでも出して了つたら、と我輩が思ふのは、実は今の家内との折合が付かないから。我輩はお志保や省吾のことを考へる度に、どの位あの二人の不幸《ふしあはせ》を泣いてやるか知れない。奈何《どう》して継母といふものは彼様《あんな》邪推深いだらう。此頃《こなひだ》も此頃で、ホラ君の御寺に説教が有ましたらう。彼晩《あのばん》、遅くなつて省吾が帰つて来た。さあ、家内は火のやうになつて怒つて、其様《そんな》に姉さんのところへ行きたくば最早《もう》家《うち》なんぞへ帰らなくても可《いゝ》。出て行つて了へ。必定《きつと》また御寺へ行つて余計なことをべら/\喋舌《しやべ》つたらう。必定また姉さんに悪い智慧を付けられたらう。だから私の言ふことなぞは聞かないんだ。斯う言つて、家内が責める。すると彼奴《あいつ》は気が弱いもんだから、黙つて寝床の内へ潜り込んで、しく/\やつて居ましたつけ。其時、我輩も考へた。寧《いつ》そこりや省吾を出した方が可《いゝ》。左様《さう》すれば、口は減るし、喧嘩《けんくわ》の種は無くなるし、あるひは家庭《うち》が一層《もつと》面白くやつて行かれるかも知れない。いや――どうかすると、我輩は彼《あ》の省吾を連れて、二人で家《うち》を出て了はうか知らん、といふやうな気にも成るのさ。あゝ。我輩の家庭《うち》なぞは離散するより外《ほか》に最早《もう》方法が無くなつて了つた。』
 次第に敬之進は愚痴な本性を顕した。酒気が身体へ廻つたと見えて、頬も、耳も、手までも紅《あか》く成つた。丑松は又、一向顔色が変らない。飲めば飲む程、反《かへ》つて頬は蒼白《あをじろ》く成る。
『しかし、風間さん、左様《さう》貴方のやうに失望したものでも無いでせう。』と丑松は言ひ慰めて、『及ばず乍ら私も力に成つて上げる気で居るんです。まあ、其盃を乾したら奈何《どう》ですか――一つ頂きませう。』
『え?』と敬之進はちら/\した眼付で、不思議さうに対手《あひて》の顔を眺めた。『これは驚いた。盃を呉れろと仰るんですか。へえ、君は斯の方もなか/\いけるんだね。我輩は又、飲めない人かとばかり思つて居た。』
 と言つて盃をさす。丑松は
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