。丑松は掛蒲団の上にある白い毛布を取つて、丁度|褞袍《どてら》を着たやうな具合に、其を身に纏《まと》ひ乍ら、
『失敬するよ、僕は斯様《こん》なものを着て居るから。ナニ、君、其様《そんな》に酷《ひど》く不良《わる》くも無いんだから。』
『風邪《かぜ》ですか。』と準教員は丑松の顔を熟視《みまも》る。
『まあ、風邪だらうと思ふんです。昨夜から非常に頭が重くて、奈何《どう》しても今朝は起きることが出来ませんでした。』と丑松は準教員の方へ向いて言つた。
『道理で、顔色が悪い。』と銀之助は引取つて、『インフルヱンザが流行《はや》るといふから、気をつけ給へ。何か君、飲んで見たら奈何だい。焼味噌のすこし黒焦《くろこげ》に成つたやつを茶漬茶椀かなんかに入れて、そこへ熱湯《にえゆ》を注込《つぎこ》んで、二三杯もやつて見給へ。大抵の風邪は愈《なほ》つて了《しま》ふよ。』と言つて、すこし気を変へて、『や、好い物を持つて来て、出すのを忘れた――それ、御土産《おみやげ》だ。』
斯《か》う言つて、風呂敷包の中から取出したのは、十一月分の月給。
『今日は君が出て来ないから、代理に受取つて置いた。』と銀之助は言葉を続けた。
『克《よ》く改めて見て呉れ給へ――まあ有る積りだがね。』
『それは難有う。』と丑松は袋入りの銀貨取混ぜて受取つて、『確に。して見ると今日は二十八日かねえ。僕はまた二十七日だとばかり思つて居た。』
『はゝゝゝゝ、月給取が日を忘れるやうぢやあ仕様が無い。』と銀之助は反返《そりかへ》つて笑つた。
『全く、僕は茫然《ぼんやり》して居た。』と丑松は自分で自分を励ますやうにして、『今月は君、小だらう。二十九、三十と、十一月も最早《もう》二日しか無いね。あゝ今年も僅かに成つたなあ。考へて見ると、うか/\して一年暮して了つた――まあ、僕なぞは何《なんに》も為なかつた。』
『誰だつて左様《さう》さ。』と銀之助も熱心に。
『君は好いよ。君はこれから農科大学の方へ行つて、自分の好きな研究が自由にやれるんだから。』
『時に、僕の送別会もね、生徒の方から明日にしたいと言出したが――』
『明日に?』
『しかし、君も斯うして寝て居るやうぢやあ――』
『なあに、最早|愈《なほ》つたんだよ。明日は是非出掛ける。』
『はゝゝゝゝ、瀬川君の病気は不良《わる》くなるのも早いし、快《よ》くなるのも早い。まあ大病人のやう
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