》つた。
『そりやあもう御察し申して居ることも有ますし、又、私の方から言ひましても、少許《すこし》は察して頂きたいと思ひまして、それで御邪魔に出ましたやうな訳なんで。』
『どうも貴方の仰《おつしや》ることは私に能く解りません。』
『まあ、聞いて下さい――』
『ですけれど、どうも貴方の御話の意味が汲取れないんですから。』
『そこを察して頂きたいと言ふのです。』と言つて、高柳は一段声を低くして、『御聞及びでも御座《ござい》ませうが、私も――世話して呉れるものが有まして――家内を迎へました。まあ、世の中には妙なことが有るもので、あの家内の奴が好く貴方を御知り申して居るのです。』
『はゝゝゝゝ、奥様《おくさん》が私を御存じなんですか。』と言つて丑松は少許《すこし》調子を変へて、『しかし、それが奈何《どう》しました。』
『ですから私も御話に出ましたやうな訳なんで。』
『と仰ると?』
『まあ、家内なぞの言ふことですから、何が何だか解りませんけれど――実際、女の話といふものは取留の無いやうなものですからなあ――しかし、不思議なことには、彼奴《あいつ》の家《うち》の遠い親類に当るものとかが、貴方の阿爺《おとつ》さんと昔御懇意であつたとか。』斯《か》う言つて、高柳は熱心に丑松の様子を窺《うかゞ》ふやうにして見て、『いや、其様《そん》なことは、まあ奈何でもいゝと致しまして、家内が貴方を御知り申して居ると言ひましたら、貴方だつても御聞流しには出来ますまいし、私も亦た私で、どうも不安心に思ふことが有るものですから――実は、昨晩は、その事を考へて、一睡も致しませんでした。』
暫時《しばらく》部屋の内には声が無かつた。二人は互ひに捜《さぐ》りを入れるやうな目付して、無言の儘《まゝ》で相対して居たのである。
『噫《あゝ》。』と高柳は投げるやうに嘆息した。『斯様《こん》な御話を申上げに参るといふのは、克《よ》く/\だと思つて頂きたいのです。貴方より外に吾儕《わたしども》夫婦《ふうふ》のことを知つてるものは無し、又、吾儕夫婦より外に貴方のことを知つてるものは有ません――ですから、そこは御互ひ様に――まあ、瀬川さん左様《さう》ぢや有ませんか。』と言つて、すこし調子を変へて、『御承知の通り、選挙も近いてまゐりました。どうしても此際《こゝ》のところでは貴方に助けて頂かなければならない。もし私の言ふことを
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