はれた思想《かんがへ》の新しく思はれたことなぞを話した。
蓮太郎の喜悦《よろこび》は一通りで無かつた。軈て風呂が湧いたといふ案内をうけて、二人して一緒に入りに行つた時も、蓮太郎は其を胸に浮べて、かねて知己とは思つて居たが、斯《か》う迄自分の書いたものを読んで呉れるとは思はなかつたと、丑松の熱心を頼母《たのも》しく考へて居たらしいのである。病が病だから、蓮太郎の方では遠慮する気味で、其様《そん》なことで迷惑を掛けたく無い、と健康《たつしや》なものゝ知らない心配は絶えず様子に表はれる。斯うなると丑松の方では反《かへ》つて気の毒になつて、病の為に先輩を恐れるといふ心は何処へか行つて了つた。話せば話すほど、哀憐《あはれみ》は恐怖《おそれ》に変つたのである。
風呂場の窓の外には、石を越して流下る水の声もおもしろく聞えた。透《す》き澄《とほ》るばかりの沸《わか》し湯《ゆ》に身体を浸し温めて、しばらく清流の響に耳を嬲《なぶ》らせる其楽しさ。夕暮近い日の光は窓からさし入つて、蒸《む》し烟《けぶ》る風呂場の内を朦朧《もうろう》として見せた。一ぱい浴びて流しのところへ出た蓮太郎は、湯気に包まれて燃えるかのやう。丑松も紅《あか》くなつて、顔を伝ふ汗の熱さに暫時《しばらく》世の煩《わづら》ひを忘れた。
『先生、一つ流しませう。』と丑松は小桶《こをけ》を擁《かゝ》へて蓮太郎の背後《うしろ》へ廻る。
『え、流して下さる?』と蓮太郎は嬉しさうに、『ぢやあ、願ひませうか。まあ君、ざつと遣つて呉れたまへ。』
斯うして丑松は、日頃慕つて居る其人に近いて、奈何《どう》いふ風に考へ、奈何いふ風に言ひ、奈何いふ風に行ふかと、すこしでも蓮太郎の平生を見るのが楽しいといふ様子であつた。急に二人は親密《したしみ》を増したやうな心地《こゝろもち》もしたのである。
『さあ、今度は僕の番だ。』
と蓮太郎は湯を汲出《かいだ》して言つた。幾度か丑松は辞退して見た。
『いえ、私は沢山です。昨日入つたばかりですから。』と復《ま》た辞退した。
『昨日は昨日、今日は今日さ。』と蓮太郎は笑つて、『まあ、左様《さう》遠慮しないで、僕にも一つ流させて呉れたまへ。』
『恐れ入りましたなあ。』
『どうです、瀬川君、僕の三助もなか/\巧いものでせう――はゝゝゝゝ。』と戯れて、やがて蓮太郎はそこに在る石鹸《シャボン》を溶いて丑松の背中へ
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