ゝ。政事家の為《す》ることは違つたものさね。』
『先生の仰《おつしや》ることは私に能《よ》く解りません。』
『花嫁は君、斯の家の娘さ。御聟《おむこ》さんは又、代議士の候補者だから面白いぢやないか――』
『ホウ、代議士の候補者? まさか彼の一緒に汽車に乗つて来た男ぢや有ますまい。』
『それさ、その紳士さ。』
『へえ――』と丑松は眼を円くして、『左様《さう》ですかねえ――意外なことが有れば有るものですねえ――』
『全く、僕も意外さ。』といふ蓮太郎の顔は輝いて居たのである。
『しかし何処で先生は其様《そん》なことを御聞きでしたか。』
『まあ、君、宿屋へ行つて話さう。』
第九章
(一)
一軒、根津の塚窪《つかくぼ》といふところに、未《ま》だ会葬の礼に泄《も》れた家が有つて、丁度|序《ついで》だからと、丑松は途中で蓮太郎と別れた。蓮太郎は旅舎《やどや》へ。直に後から行く約束して、丑松は畠中の裏道を辿《たど》つた。塚窪の坂の下まで行くと、とある農家の前に一人の飴屋《あめや》、面白|可笑《をか》しく唐人笛《たうじんぶえ》を吹立てゝ、幼稚《をさな》い客を呼集めて居る。御得意と見えて、声を揚げて飛んで来る男女《をとこをんな》の少年もあつた――彼処《あすこ》からも、是処《こゝ》からも。あゝ、少年の空想を誘ふやうな飴屋の笛の調子は、どんなに頑是《ぐわんぜ》ないものゝ耳を楽ませるであらう。いや、買ひに集る子供ばかりでは無い、丑松ですら思はず立止つて聞いた。妙な癖で、其笛を聞く度に、丑松は自分の少年時代を思出さずに居られないのである。
何を隠さう――丑松が今指して行く塚窪の家には、幼馴染《をさななじみ》が嫁《かたづ》いて居る。お妻といふのが其女の名である。お妻の生家《さと》は姫子沢に在つて、林檎畠一つ隔《へだ》てゝ、丑松の家の隣に住んだ。丑松がお妻と遊んだのは、九歳《こゝのつ》に成る頃で、まだ瀬川の一家族が移住して来て間も無い当時のことであつた。もと/\お妻の父といふは、上田の在から養子に来た男、根が苦労人ではあり、他所者《よそもの》でもあり、するところからして、自然《おのづ》と瀬川の家にも後見《うしろみ》と成つて呉れた。それに、丑松を贔顧《ひいき》にして、伊勢詣《いせまうで》に出掛けた帰途《かへりみち》なぞには、必ず何か買つて来て呉れるといふ風であつた。斯う
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