に呉れました。
二人の子供はお爺さんが造った釣竿を手に提《さ》げまして、大喜びで小川の方へ出掛けて行きました。小川の岸には胡桃《くるみ》の木の生《は》えて居る場所がありました。兄弟は鰍《かじか》の居そうな石の間を見立てまして、胡桃の木のかげに腰を掛けて釣りました。
半日ばかり、この二人の子供が小川の岸で遊んで家《うち》の方へ帰って行きますと、丁度お爺さんも木を一ぱい背負《しょ》って山の方から帰って来たところでした。
「釣れましたか。」とお爺さんが聞きますと、兄弟の子供はがっかりしたように首を振りました。賢いお魚は一|匹《ぴき》も二人の釣針に掛《かか》りませんでした。
その時、兄弟の子供はお爺さんに釣りの話をしました。兄はゆっくり構えて釣って居たものですから釣針にさした餌《えさ》は皆《みん》な鰍に食《たべ》られてしまいました。
弟はまたお魚の釣れるのが待遠しくて、ほんとに釣れるまで待って居られませんでした。つい水の中を掻廻《かきまわ》すと、鰍は皆《みん》な驚いて石の下へ隠れてしまいました。
お爺さんは子供の釣りの話を聞いて、正直な人の好さそうな声で笑いました。そして二人の兄弟にこう申しました。
「一人はあんまり気が長過ぎたし、また、一人はあんまり気が短過ぎました。釣りの道具ばかりでお魚は釣れません。」
底本:「赤い鳥傑作集」新潮文庫、新潮社
1955(昭和30)年6月25日発行
1974(昭和49)年9月10日29刷改版
1989(平成1)年10月15日48刷
底本の親本:「赤い鳥 復刻版」日本近代文学館
1968(昭和43)〜1969(昭和44)年発行
入力:舞
校正:Juki
2000年2月15日公開
2005年12月27日修正
青空文庫作成ファイル:
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