舟路
 鳥なき里
 藪入
 惡夢
 響りん/\音りん/\
 翼なければ
 罪人と名にも呼ばれむ
 胡蝶の夢
 落葉松の樹
 ふと目はさめぬ
 縫ひかへせ

[#改丁]

  若菜集より
     明治二十九年――同三十年
          (仙臺にて)

[#改丁]

 序のうた


心《こゝろ》無《な》き歌のしらべは
一房《ひとふさ》の葡萄のごとし
なさけある手にも摘《つ》まれて
あたゝかき酒となるらむ

葡萄棚ふかくかゝれる
紫《むらさき》のそれにあらねど
こゝろある人のなさけに
蔭に置く房の三つ四つ

そは歌の若きゆゑなり
味ひも色も淺くて
おほかたは噛《か》みて捨つべき
うたゝ寢の夢のそらごと
[#改ページ]

 草枕


夕波くらく啼く千鳥
われは千鳥にあらねども
心の羽《はね》をうちふりて
さみしきかたに飛べるかな

若き心の一筋に
なぐさめもなくなげきわび
胸の氷のむすぼれて
とけて涙となりにけり

蘆葉《あしは》を洗ふ白波の
流れて巖《いは》を出づるごと
思ひあまりて草枕
まくらのかずの今いくつ

かなしいかなや人の身の
なきなぐさめを尋ね侘び
道なき森に分け入りて
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