概にそれを省き去る氣になれなかつた。原本の詩集のうち、一番多くを省いたのは『夏草』の中からで、『若菜集』や『落梅集』からも長短數篇を省いた。題目等もこの抄本にはいくらか改めて置いたものもある。すべてはこれらの詩を書いた當時の自分の心持に近づけることを主にした。
 思へば私が『若菜集』を出したのは、今から三十一年の前にもあたる。この古い落葉のやうな詩が今日まで讀まれて來たといふことすら、私には意外である。頭髮既に白い私がこれを編むのは、自分の青年時代を編むやうなものである。この抄本をつくるにつけても、今昔の感が深い。

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昭和二年五月
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[#地から7字上げ]麻布飯倉にて
[#地から3字上げ]著者
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   藤村詩抄目次

 自序
 抄本を出すにつきて

     ――――――――

若菜集より

 序のうた
 草枕
 二つの聲
 松島瑞巖寺に遊びて
 春
  一 たれかおもはむ
  二 あけぼの
  三 春は來ぬ
  四 眠れる春よ
  五 うてや鼓
 明星
 潮音
 おえふ
 おきぬ
 おさよ
 おくめ
 おつた
 おきく
 
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