では是非達者でゐると言ひ/\して、ことしの六月の上京をも心待ちにしてゐたといふことであつたのに實に惜しいことをした。

 屋《いへ》は舊く、身もまた舊い。これは岡野知十君が遺稿の中に見つけた言葉であるが、このまゝ今日の自分の上にもあてはまる。二疊の玄關は茶の間への廊下續きに當るところで、路地からの風も吹き入り夏は涼しい。ことしの暑中にも午後からはそこを讀書の場處にして、日除《ひよけ》がはりに路地の片隅へ造りつけた朝顏棚の方へ行くことを慰みの一つにして來たが、いつの間にか枯れ/″\な蔓のみが疎らな竹の垣に殘るやうになつた。夏は深い日除になり、秋は黄葉の落ちるまでを味はせ、冬はまた物干場のかはりになるのも吾家の庭の片隅にある青桐だ。しかし、どうやら七年の重荷をおろすことの出來た自分にはこの舊い屋根の下もなつかしい。今は身も心も僅かに輕くなつたやうな氣がする。

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過去を探ることの容易でない一例として、この覺書の中にも書いてある木曾路の『水役』につき、自分の知り得たことをすこし記しつけて見る。木曾奈良井に住む徳利屋主人より遠藤工學士宛の手紙によれば、奈良井邊でいふ水役と
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