ト、高い天井の下に映る日の光を眺めながら、つくづく生き残るものの悲哀《かなしみ》を覚えた。その悲哀を多くの親しい身内のものに死別れた後の底疲れに疲れて来た自分の身体で覚えた。
 足立や菅を見ると、若かった日の交遊が岸本の胸に浮んで来る。つづいてあの亡くなった青木のことなぞが聯想《れんそう》せられる。岸本と一緒にその教会堂の石階《いしだん》を降りた二人の学友は最早《もう》青木なぞの生きていた日のことを昔話にするような人達に成っていた。

        四

 それから岸本は二人の学友と一緒に見附を指《さ》して歩いた。久し振《ぶり》で足立の家の方へ誘われて行った。岸本を教会堂まで送って行った車夫は空車を引きながら、話し話し歩いて行く岸本の後へ随《つ》いて来た。
「何年振で会堂へ来て見たか」そんな話をして行くうちに、旧い見附跡に近い空地《あきち》のところへ出た。風の多い塵埃《ほこり》の立つ日で、黄ばんだ砂煙が渦を巻いてやって来た。その度《たび》に足立も、菅も、岸本も、背中をそむけて塵埃の通過ぎるのを待っては復《ま》た歩いた。
 蒸々と熱い日あたりは三人の行く先にあった。牧師が説教台の上で読
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