二日だ。新涼の秋気はすでに二階の部屋にも満ちて来た。この一夏の間、わたしは例年の三分の一に当るほども自分の仕事をなし得ず、せめて煩わなかっただけでもありがたいと思えと人に言われて、僅かに慰めるほどの日を送って来たが、花はその間に二日休んだだけで、垣のどこかに眸《ひとみ》を見開かないという朝とてもなかった。今朝も、わたしの家では、十八九輪もの眼のさめるようなやつが互の小さな生命を競い合うように咲いている。これから追々と花も小さくなって、秋深い空気の中に咲き残るのもまた捨てがたい風情があろう。
底本:「日本の名随筆19 秋」作品社
1984(昭和59)年5月25日第1刷発行
底本の親本:「藤村全集 第一三巻」筑摩書房
1967(昭和42)年9月
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2006年8月3日作成
青空文庫作成ファイル:
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