山陰土産
島崎藤村

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)城崎《きのさき》へ

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)詩人|國府犀東《こくぶさいとう》氏

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つた

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いろ/\な
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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    一 大阪より城崎《きのさき》へ

 朝曇りのした空もまだすゞしいうちに、大阪の宿を發《た》つたのは、七月の八日であつた。夏帽子一つ、洋傘一本、東京を出る前の日に「出來《でき》」で間に合はせて來た編あげの靴も草鞋をはいた思ひで、身輕な旅となつた。
 こんなに無雜作に山陰行の旅に上ることの出來たのはうれしい。もつとも、今度は私一人の旅でもない。東京から次男の鷄二をも伴つて來た。手荷物も少なく、とは願ふものの、出來ることなら山陰道の果《はて》までも行つて見たいと思ひ立つてゐたので、
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