も何かにつけて不自由であり、第一病気でもしたときに心細くもありますから、今のうちに自分の生活を変え、晩年になって不自由しないように今からそのしたくをしたいと思います。
幸い加藤《かとう》静子さんはおまえもよく知っているとおり、わが家へ長く通って来て気心もよくわかっていますから、川越のにいさんにとうさんから直接に交渉して、加藤さんをもらい受けることに話をまとめました。
このことはまだ親戚《しんせき》にも友人にもだれにも話してありません。おまえたちだけには話して置きたいと思いながら、さてそれが今日まで言い出せなかったわけです。過去十幾年の間、とうさんひとりをたよりにしてきたようなおまえたちのことを思うと、どうしてもこの手紙が書けなかったのです。
この話が川越の加藤大一郎さんととうさんとの間にまとまり先方の承諾を得たのは、ことしの七月のころでした。大一郎さんはそのために一度東京へ出て来てくれました。いろいろ打ち合わせも順調に運び、わざとばかりの結納《ゆいのう》の品も記念に取りかわしました。もはや期日の打ち合わせをするほどにこの話は進んできています。とうさんのことですから、いっさい簡素を
前へ
次へ
全5ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング