成らない―なんでも医者の言うには腸から来ている熱なんだそうです。」
こんな話をしながら、二人はお房を連れて、庭づたいに井戸のある方へ廻った。
「でも、房ちゃんは余程姉さんらしく成りましたネ」
と正太は木犀《もくせい》の樹の側を通る時に言った。
この木犀は可成《かなり》の古い幹で、細長い枝が四方へ延びていた。それを境に、疎《まばら》な竹の垣を繞《めぐ》らして、三吉の家の庭が形ばかりに区別してある。
「お雪、房ちゃんに薬を服《の》ましたかい」
と三吉は庭から尋ねてみた。正太も縁側のところへ腰掛けた。
「どういうものか、房ちゃんはあんな風なんですよ」とお雪はそこへ来て、娘の方を眺めながら言った。「すこし屋外《そと》へ遊びに出たかと思うと、直に帰って来て、ゴロゴロしてます。今も、父さん達のところへ行って見ていらっしゃいッて、私が無理に勧めて遣《や》ったんですよ」
長い労作の後で、三吉も疲れていた。不思議にも彼は休息することが出来なかった。唯《ただ》疲労に抵抗するような眼付をしながら、甥《おい》と一緒に庭へ向いた部屋へ上った。
「正太さん、大屋さんから新茶を貰いました――一つ召上っ
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