く、俺《おれ》は行って見て来る」
 こう三吉が妻に言って置いて、午後の三時頃に家を出た。
 森彦は旅舎の方で弟を待受けていた。二階には、相変らず熊の毛皮なぞを敷いて、窓に向いた方は書斎、火鉢《ひばち》の置いてあるところは応接間のように、一つの部屋が順序よく取片付けてあった。三吉が訪ねて行った時は、茶も入れるばかりに用意してあった。
「や」
 と森彦は弟を迎えた。
 何時《いつ》まで経っても兄弟は同じような気分で向い合った。兄の頭は余程|禿《は》げて来た。弟の鬢《びん》には白いやつが眼につくほど光った。未だそれでも、森彦はどこか子供のように三吉を思っていた。弟の前に菓子なぞを出して勧めて、
「今日お前を呼んだのは他でも無いが……実はエムの一件でネ」
 彼は切出した。
 森彦が言うには、今度という今度は話の持って行きどころに困った。日頃金主と頼む同志の友は病んでいる。一時融通の道が絶えた、ここを切開いて行かないことには多年の望を遂げることも叶《かな》わぬ……人は誰しも窮する時がある、それを思って一肌《ひとはだ》脱いでくれ、親類に迷惑を掛けるというは元より素志に背《そむ》くが、二百円ばかり欲
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