この児の頬《ほっぺた》は俺の母親《おっか》さんに彷彿《そっくり》だ」などと言っているかと思えば、突然《だしぬけ》にお雪に向ってこんなことを言出す。
「房ちゃんは真実《ほんと》に俺の児かねえ」
「馬鹿な……自分の児でなくて、そんなら誰の児です」
こういう馬鹿らしい問答ほど、お雪の気を傷《いた》めることは無かった。
「一体、お前はどういう積りで俺の家へ嫁《かたづ》いて来た……」
「どういう積りなんて、そんな無理なことを……」
「いっそ俺は旅にでも出て了おうかしらん――どうかすると、そういう気が起って来て仕方ない」
「まあ、どうしてそんな気に成るんでしょうねえ」
お雪はもう呆《あき》れて了う。「他所《よそ》から帰って来ると、自分の家ほど好い処は無いなんて、よく言うじゃ有りませんか――真実《ほんと》に、貴方は気が変り易《やす》いんですねえ」こうも並べてみる。お雪には、夫が戯れて言うとはどうしても思われなかった。それは、唯考えてみたばかりでも、彼女の心をムシャクシャさせた。
熱い日が射《あた》って来た。三吉の家では、前の年と同じように、鴨居《かもい》から鴨居へ細引を渡した。お雪が生家《さと
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