なぞは、君、三度も家内を貰った……最初の結婚……そういう若い時の記憶は、最早二度とは得られないね。どうしても一番最初に貰った家内が一番良いような気がするね。それを失うほど人間として不幸なことは無い。これはまあ極く正直な御話なんです……」
 三吉は黙って先生の話を聞いていた。先生は往時《むかし》戦争にまで出たことのある大きな手で、種々《いろいろ》な手真似《てまね》をして、
「君なぞも、もっと年をとってみ給え、必《きっ》と我輩の言うことで思い当ることが有るから……我輩はソクラテスで感心してることが有る。ソクラテスの細君と言えば、君、有名な箸《はし》にも棒にも掛らないような女だ……それをジッと辛抱した……一生辛抱した……ナカナカあの真似はできないね……あそこが我輩はあの哲学者の高いところじゃないかと思うね」
 先生の話は宗教家のような口調を帯びて来た。そして、種々なところへ飛んで、自分の述懐に成ったり、亜米利加《アメリカ》時代の楽しい追想に成ったりする。
「亜米利加の婦人なぞは、そこへ行くと上手なものだ。以前に相愛の人でも、自分の夫に紹介して、奇麗に交際して行く―― 'He is my lo
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