》と言《い》つて見《み》せました。そこではお家《うち》の畠《はたけ》で取《と》れたお茶《ちや》の葉《は》を煮《に》て居《ゐ》る人《ひと》があります。あの莚《むしろ》[#ルビの「むしろ」は底本では「むろ」]の上《うへ》を御覽《ごらん》と言《い》つて見《み》せました。そこではお釜《かま》から出《だ》したお茶《ちや》の葉《は》をひろげて團扇《うちは》であほいで居《ゐ》る人《ひと》があります。あの焙爐《ほいろ》の方《はう》を御覽《ごらん》と言《い》つて見《み》せました。そこでは火《ひ》の上《うへ》にかけたお茶《ちや》の葉《は》を兩手《りやうて》で揉《も》んで居《ゐ》る人《ひと》があります。
『チユウ、チユウ。』
とめづらしいことの好《す》きな雀《すずめ》が鳴《な》きました。そしてめづらしいことでさへあれば、雀《すずめ》は喜《よろこ》びました。
お家《うち》では祖母《おばあ》さんや伯母《をば》[#ルビの「をば」は底本では「おば」]さんやお雛《ひな》まで手拭《てぬぐひ》を冠《かぶ》りまして、伯父《おぢ》さんや爺《ぢい》やと一|緒《しよ》に働《はたら》きました。近所《きんぢよ》から手傳《てつだ》ひに來《き》て働《はたら》く人《ひと》もありました。好《よ》いお茶《ちや》の香《にほひ》がするのと、家中《いへぢう》でみんな働《はたら》いて居《を》るので、父《とう》さんも雀《すずめ》と一|緒《しよ》にそこいらを踊《をど》つて歩《ある》きました。
父《とう》さんのお家《うち》ではこのお茶《ちや》ばかりでなく食《た》べる物《もの》も着《き》る物《もの》も自分《じぶん》のところで造《つく》りました。お味噌《みそ》も家《うち》で造《つく》り、お醤油《しやうゆ》も家《うち》で造《つく》り、祖母《おばあ》さんや伯母《をば》さんの髮《かみ》につける油《あぶら》まで庭《には》の椿《つばき》の樹《き》の實《み》を絞《しぼ》つて造《つく》りました。林《はやし》にある小梨《こなし》の皮《かは》を取《と》つて來《き》て、黄色《きいろ》い汁《しる》で絲《いと》まで染《そ》めました。父《とう》さんの子供《こども》の時分《じぶん》には祖母《おばあ》さんの織《お》つて下《くだ》さる着物《きもの》を着《き》、爺《ぢい》やの造《つく》つて呉《く》れる草履《ざうり》をはいて、それで學校《がくかう》へ通《かよ》ひました。さうし
前へ
次へ
全86ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング