》の振《ふ》る竹竿《たけざを》の先《さき》についた古《ふる》い手拭《てぬぐひ》か何《なに》かの布《きれ》でした。鷹《たか》の羽音《はおと》でもあるやうに唸《うな》つて來《き》た音《おと》は、その竹竿《たけざを》を手《て》にした人《ひと》が口端《くちばた》を尖《とが》らせてプウ/\何《なに》か吹《ふ》く眞似《まね》をして見《み》せた聲《こゑ》でした。
鳥屋《とや》で捕《と》れる小鳥《ことり》は、一朝《ひとあさ》に六十|羽《ぱ》や七十|羽《ぱ》ではきかないと言《い》ひました。この小鳥《ことり》の捕《と》れる頃《ころ》には、村《むら》の子供《こども》はそろ/\猿羽織《さるばおり》を着《き》ました。急《きふ》に降《ふ》つて來《き》て、また急《きふ》に止《や》んでしまふやうな雨《あめ》も、深《ふか》い林《はやし》を通《とほ》りました。

   四八 爐邊《ろばた》

爺《ぢい》やが山《やま》から茸《きのこ》を採《と》つて來《き》たり、栗《くり》を拾《ひろ》つて來《き》たりする頃《ころ》は、お家《うち》の爐邊《ろばた》の樂《たの》しい時《とき》でした。
爺《ぢい》やは爐《ろ》で栗《くり》を燒《や》いて、友《とも》さんや父《とう》さんに分《わ》けて呉《く》れるのを樂《たのし》みにして居《ゐ》ました。ある晩《ばん》、爺《ぢい》やが裏《うら》のお稻荷《いなり》さまの側《わき》から拾《ひろ》つて來《き》た大《おほ》きな栗《くり》を爐《ろ》にくべまして、おいしさうな燒栗《やきぐり》のにほひをさせて居《ゐ》ますと、それを爐邊《ろばた》の板《いた》の上《うへ》で羨《うらや》ましさうに見《み》て居《ゐ》た澁柿《しぶかき》がありました。
『庄吉爺《しやうきちぢい》さん、栗《くり》の澁《しび》が燒《や》けてそんなに香《かう》ばしさうになるものなら、一《ひと》つ私《わたくし》も燒《や》いて見《み》て呉《く》れませんか。』
とその澁柿《しぶかき》が言《い》ひました。
爺《ぢい》やは父《とう》[#ルビの「とう」は底本では「う」]さんの見《み》て居《ゐ》る前《まへ》で、爐邊《ろばた》にある太《ふと》い鐵《てつ》の火箸《ひばし》を取出《とりだ》しました。それで澁柿《しぶかき》に穴《あな》をあけました。栗《くり》を燒《や》くと同《おな》じやうにその澁柿《しぶかき》を爐《ろ》にくべました。そのうちに、※[#「熱
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