兆民居士安くにかある
北村透谷

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)咀嚼《そしやく》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)仏学者|安《いづ》くにある

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から2字上げ](明治二十六年九月)
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 多くの仏学者中に於てルーソー、ボルテールの深刻なる思想を咀嚼《そしやく》し、之を我が邦人に伝へたるもの兆民居士を以て最とす。「民約篇」の飜訳は彼の手に因《よ》りて完成せられ、而して仏国の狂暴にして欝怏《うつあう》たる精神も亦た、彼に因りて明治の思想の巨籠中に投げられたり。彼は思想界の一漁師として漁獲多からざるにあらず、社会は彼を以て一部の思想の代表者と指目せしに、何事ぞ、北海に遊商して、遠く世外に超脱するとは。
 世、兆民居士を棄てたるか、兆民居士、世を棄てたるか、抑《そもそ》も亦た仏国思想は遂に其の根基を我邦土の上に打建つるに及ばざるか。居士が議会を捨てたるは宜《むべ》なり、居士が自由党を捨てたるも亦た宜なり、居士は政治家にあらず、居士は政党員たるべき人にあらず、然れども何が故に、
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