伝」

 平和主義を抱ける洋人某、曾《か》つて余と「八犬伝」を読む。我が巻中に入れたる※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]画、腥《なま》ぐさき血を見せざる者甚だ尠《まれ》なり。平和家|泣《なみだ》を啜つて曰く、往昔《むかし》の日本は実に無量の罪悪を犯せり、われ幸にして、当時貴邦に遊ばず、若し遊びしならば、我は為に懊悩して死せしならむと。言《ことば》甚だ謔《ぎやく》に近しと雖《いへども》、以て文明と戦争の関係を知るに足れり、戦争の精神、年を逐《お》ふて減じ行き、いつかは戦争なき時代を見るを得んか。
[#地から2字上げ](明治二十五年三月)



底本:「現代日本文學大系 6 北村透谷・山路愛山集」筑摩書房
   1969(昭和44)年6月5日初版第1刷発行
   1985(昭和60)年11月10日初版第15刷発行
初出:「平和 一號」平和社(日本平和會)
   1892(明治25)年3月15日
入力:kamille
校正:鈴木厚司
2005年5月18日作成
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