立ちては同じく頓着なきものなり。同じく愚鈍なるものなり、斯くてこそ平等均一の大経済は行はるゝなれ、斯くてこそ貧しきものをして富みたるものと共に、学あるものをして学なきものと共に、智慧あるものをして智慧なきものと共に、甲乙《たれかれ》なくして天国の門に入ることを得るなり。イヱスの奥義は幼児の如くになることにあり。イヱスにありて福《さいはひ》なるものは、有《も》つところ多きものより、有つところ少なきものにあり。雲の中《なか》に彼あり、風の中に彼あり、心の中に彼あり、尤も彼に近きものは尤も無心なるものにあり。学者をして無心ならしめよ、無学者をして無心ならしめよ、心の聖《きよ》きものは福なり、其人は天国を見ることを得べければなり、斯《かく》の如くして始めて真正の実行生ず。実行は必らずしも偉大なる事業を期すべきにあらず、人々其の分を守りて出来得る丈の善を成すべし、悪人も一転して善を行ふを得《え》、罪人《つみびと》も一変して義を行ふを得《う》、これぞ基督教《くりすとけう》が教ふる実行的道徳なる。
[#地から2字上げ](明治二十六年四月)
底本:「現代日本文學大系 6 北村透谷・山路愛山集」筑摩書房
1969(昭和44)年6月5日初版第1刷発行
1985(昭和60)年11月10日初版第15刷発行
初出:「聖書之友雜誌 六四號」聖書之友事務所
1893(明治26)年4月15日
入力:kamille
校正:鈴木厚司
2004年10月31日作成
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