分の體が瞬間ゴムマリ[#「ゴムマリ」に傍点]のやうに縮まつたのを感じた。
「貴樣、皆をけしか[#「けしか」に傍点]けたろツ!」
源吉は反射的に、自分の頬を兩手で抑へた。と、次が來た。鼻がキーンとなると、強い藥でも嗅いだやうに感じて、――……べつたり尻もち[#「もち」に傍点]をついてゐた。眼まひがした。彼は兩手で床に手をついて、自分の身體を支へた。鼻血の生ぬるいのが、床についてゐる手の甲に、落ちてきた。
「この野郎達案外、皆強情だ! 土ん百姓の癖に生意氣しやがると――」
側に立つてゐた巡査が、さう云ひながら、腰にさしてゐた鞘のまゝの劍をもつて、滅多打ちに、源吉をなぐりつけた。すると、二、三人の巡査もよつてきて、ふんだり、蹴つたりした。――源吉は、「夢中」になつてゐた。それから少し手をゆるめた。
「どうだ?」
源吉は、自分でも分らなかつたが、どうしたのか、眼蓋が重たくて、はつきり開けることが出來なかつた。そして顏全體に何か粘土でもぬられてゐるやうで、自分の手で抑へても、それがちつとも顏の感覺に來なかつた。何か別なもの[#「もの」に傍点]をつかんでゐるやうだつた。
「皆をけしか[#「けしか」に傍点]けたつて白状するんだ!」
巡査が云ふのも、何處かやつぱり一皮隔てた處から聞えてくる氣がした。
「大きな圖體しやがつて、この野郎。」
その途端に、源吉の身體がひよいと浮き上つた。「えツ!」氣合だつた。――源吉は床に投げ出されたとき「うむ」と云つた。と見る/\肺が急激に縮まつてゆく、苦しさを感じた。そして、自分の體が床から下へそのまゝ、グツ、グツと沈んでゆくやうに感じて……が、それから分らなくなつてしまつた。
三日間駐在所に置かれて、その暮方、十二、三人が歸つてもいゝ事になつて、表へ出された。幹部のものは札幌へ送られることになつたのでのこつた。
皆は駐在所の角につながれてゐた、空になつた馬橇に背中を圓くして乘ると、出掛けた。なぐられたあとに、寒い風が當ると、ヒリ/\とそこが痛んだ。吹雪いてゐた。町外れに出ると、それが遠慮なく吹きまくつた。皆は外套の上に、むしろ[#「むしろ」に傍点]やゴザ[#「ゴザ」に傍点]をかぶつて、出來るだけ身體を縮めた。一臺、一臺、元氣なく暮方の、だん/\嚴しくなつてゆく寒氣の中を、鈴をならしながら歸つて行つた。誰も、何も云はなかつた。お互はお互
前へ
次へ
全70ページ中60ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング