源吉の顏をだまつてみて、それから「うん?」と云つた。
 源吉は、自分がなんのきつかけもなく、突コツにそれを云つたことに氣付いて、赤くなつた。ドギまぎして「芳さ」と云つた。
「芳? ――うん、芳か。」さう母親が分ると、「それさ、まだ墮りねえどよ。體でも惡くしねえばえゝ。」と云つた。
         *
 百姓達は、さうやつて集つて決めたが、今度はそのことを、地主や差配を相手にやつて[#「やつて」に傍点]行くといふやうな事になると、お互が何處か、調子がをかしくなつた。知らず知らずの間に、どうにか我慢することにするか、そんな事に逆もどりをしさうな處が出てきた。さうなつたとしても、百姓は然し今までの長い間の貧乏の――泥沼の底のやうな底になれてゐたので、ちつとも不思議がらずに矢張り、その暮しに堪へて行つたかも知れなかつた。――源吉は、一層無口に、爐邊に大きく安坐《あぐら》をかきながら、「見たか!」と、心で嘲笑つた。
「お前え達のやることツたらそつたらごとだ。」
 二、三日して、小作料を納められないので、立退きをされさうになつてゐた「河淵の澤」のところへ、差配がとう/\やつてきた。澤の畑を處分するから、雪が消えたら、家をあけろ、と云つた。女や子供に、ワン/\泣かれると、澤はすつかりオロ/\して、この前の會合の仲間へ、それを云ひに行つた。「幹部」の百姓は、急に、それで騷ぎ出した。そして、すぐ學校へ寄り合ふと、今更新しいことのやうに、この前と同じ相談を又やり直した。
「どうしても、やらなけアならないかな。」年寄つたのが、そんな事を云つた。が、他の「幹部」は、今時、こんな事を云ふのをきいても、「冗談云つちや困る」とさへ思はなかつた。かへつて、首を一緒にかしげて考へこんだりした。そして、
「まあ、さうしなけアなんねえべ。」と、そんな事になつた。
 それから、何邊も同じ事を、グル/\繰りかへして、「がつしりかゝつてやるべ。」といふことに決つた。それで皆が、やうやく別れた。
 差配が今年度分の小作料のことで、村にやつてきて、村の重だつた――小金をためてゐる丸山の家にゐることが分つたので、「幹部」の一番若い元氣のいゝ石山が、校長先生の入智慧で作りあげた恐ろしく漢字の多い、石山自身にさへ、さうはつきり文句も意味も分らない「陳述書」をもつて、出掛けて行つた。
 差配は、石山がドモリながら、眞赤
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